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広島地方裁判所 平成5年(ワ)508号 判決

平成五年(ワ)第五〇八号事件原告

平成六年(ワ)第五一七号事件原告

児髙伸郎

平成六年(ワ)第五一七号事件原告

鯉城建工株式会社

右代表者代表取締役

児髙伸郎

右両名訴訟代理人弁護士

間所了

飯岡久美

平成五年(ワ)第五〇八号事件被告

明治生命保険相互会社

右代表者代表取締役

波多健治郎

平成五年(ワ)第五〇八号事件被告

住友生命保険相互会社

右代表者代表取締役

浦上敏臣

右両名訴訟代理人弁護士

井上隆晴

青本悦男

細見孝二

平成六年(ワ)第五一七号事件被告

東京海上火災保険株式会社

右代表者代表取締役

五十嵐庸晏

右訴訟代理人弁護士

鳴戸大二

主文

一  平成五年(ワ)第五〇八号事件原告の請求をいずれも棄却する。

二  平成六年(ワ)第五一七号事件原告らの請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、平成五年(ワ)第五〇八号事件原告兼平成六年(ワ)第五一七号事件原告児髙伸郎及び平成六年(ワ)第五一七号事件原告鯉城建工株式会社の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

(平成五年(ワ)第五〇八号事件)

一  請求の趣旨

1  被告明治生命保険相互会社(以下「被告明治生命」という。)は、原告児髙伸郎(以下「原告児髙」という。)に対し、一八七万五〇〇〇円及び平成五年四月二九日から支払い済みまで年六分の割合による金員を支払え。

2  被告住友生命保険相互会社(以下「被告住友生命」という。)は、原告児髙に対し、一二五万円及びこれに対する平成五年四月二八日から支払い済みまで年六分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は、被告らの負担とする。

4  仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

(平成六年(ワ)第五一七号事件)

一  請求の趣旨

1  被告東京海上火災保険株式会社(以下「被告東京海上」という。)は、原告鯉城建工株式会社(以下「原告会社」という。)に対し、六五一万四一六二円及びこれに対する平成六年四月一九日から支払い済みまで年六分の割合による金員を支払え。

2  被告東京海上は、原告児髙に対し、一一二万九五〇〇円及びこれに対する平成六年四月一九日から支払い済みまで年六分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

(平成五年(ワ)第五〇八号事件及び平成六年(ワ)第五一七号事件)

一  請求原因

1  本件各保険契約

(一) 被告明治生命は、平成元年一二月一日、原告会社との間で、原告児髙を被保険者として別紙契約目録記載一の保険契約(以下「本件一の保険契約」という。)を締結した。

(二) 被告住友生命は、平成二年七月一日、原告との間で、原告児髙を被保険者として別紙契約目録記載二の保険契約(以下「本件二の保険契約」という。)を締結した。

(三) 被告東京海上は、平成三年二月七日、原告会社との間で、原告児髙を被保険者として、別紙契約目録記載三の保険契約(以下「本件三の保険契約」という。)を締結した。

(四) 被告東京海上は、同年一一月二一日、原告会社との間で、原告児髙を被保険者として、別紙契約目録記載四の保険契約(以下「本件四の保険契約」という。)を締結した。

(五) 被告東京海上は、平成四年二月二四日、原告児髙との間で、同原告を被保険者として別紙契約目録記載五の保険契約(以下「本件五の保険契約」という。)を締結した。

2  本件保険事故の発生

(一) 児髙は、平成四年四月二六日午後九時三〇分、同原告の自宅の二階台所において、新しく購入したテレビ(二〇インチ、重さ三二キログラム)を高さ1.7メートルの冷蔵庫の上に載せるために、テレビを抱えて踏み台として椅子の上に上がり、抱えていたテレビを冷蔵庫の上に持ち上げようとしたとき、バランスを崩し、テレビを抱えたまま後方に転倒し、後ろにあった食卓で後頭部を打撲し、テレビで胸部を打撲した。

(二) その晩は、自宅で安静療養に努めたが、良くならないので、翌四月二七日朝、広島市中区舟入本町の藤井病院に行き、藤井康史医師の診察を受け、頭部打撲、脳挫傷、左胸部打撲の傷害により入院治療を必要としたので、即日入院した。

(三) 治療の経過は、次のとおりである。

(1) 入院治療

平成四年四月二七日から同年九月二日まで一二九日間入院

(2) 通院治療

平成四年九月三日から平成五年一月一三日まで一三三日間(内実日数五四日間)

(3) 就業が全く不可能な期間

平成四年四月二七日から同年一〇月三一日まで一八八日間

3  災害入院給付金等の計算

(一) 被告明治生命は、本件一の保険契約において、被保険者である原告児髙が災害(不慮の事故)により入院したときには、一日につき一万五〇〇〇円の災害入院給付金を支払う旨の入院保障特約を締結しているところ、同原告は、前記のとおり不慮の事故で一二九日間入院したので、四日間の免責を除き一二五日間分の災害入院給付金一八七万五〇〇〇円を請求できる。

(二) 被告住友生命は、本件二の保険契約において、被保険者である原告児髙が不慮の事故により五日以上入院したときは、一日につき一万円の災害入院給付金を支払う旨の災害入院特約を締結しているところ、同原告は、前記のとおり不慮の事故で一二九日間入院したので、四日間の免責を除き一二五日間分の災害入院給付金一二五万円を請求できる。

(三) 被告東京海上は、本件三の保険契約において、被保険者である原告児髙の所得について月額五〇万円を補償する契約を締結しているところ、原告児髙は、前記のとおり不慮の事故で入通院し、六か月間働くことができなかったので、原告会社は、三〇〇万円を請求できる。

(四) 被告東京海上は、本件四の保険契約において、被保険者である原告児髙が入院したときには、一日につき一万五〇〇〇円の、通院したときには一日につき七五〇〇円の保険金及び医療費用を支払う旨の契約を締結しているところ、原告児髙は、前記のとおり不慮の事故で一二九日間入院し、五四日間通院し、看護費用及び医療費を支払ったので、原告会社は、次の計算により三五一万四一六二円を請求できる。

入院 一日一万五〇〇〇円×一二九日=一九三万五〇〇〇円

通院 一日七五〇〇円×五四日=四〇万五〇〇〇円

看護費用 九九万五四〇二円(内訳は別紙付添看護費用表のとおり)

医療費 一七万八七六〇円(内訳は別紙医療費表のとおり)

(五) 被告東京海上は、本件五の保険契約において、被保険者である原告児髙が入院したときには、一日につき七五〇〇円の、通院したときには一日につき三〇〇〇円の保険金を支払う旨の契約を締結しているところ、原告児髙は、前記のとおり不慮の事故で一二九日間入院し、五四日間通院したので、次の計算により一一二万九五〇〇円を請求できる。

入院 一日七五〇〇円×一二九日=九六万七五〇〇円

通院 一日三〇〇〇円×五四日=一六万二〇〇〇円

4  よって、原告らは、被告らに対し、本件各保険契約に基づき請求の趣旨記載のとおりの各金員の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

(被告明治生命、同住友生命)

1  請求原因1の(一)、(二)は認める。

2  同2は知らない。

3  同3(一)、(二)のうち原告児髙がその主張する金額の災害入院給付金を請求できるとの主張は争う。

(被告東京海上)

1  請求原因1の(三)ないし(五)は認める。

2  同2は知らない。

3  同3の(三)ないし(五)のうち原告らがその主張する金額の保険金等を請求できるとの主張は争う。

三  抗弁

(被告明治生命、同住友生命)

1  重大事由による解除

(一) 本件一、二の保険契約の特約について、「他の保険契約との重複によって、被保険者にかかる給付金額等の合計額が著しく過大であって、保険制度の目的に反する状態がもたらされるおそれがあるとき」、「その他この特約を継続することを期待しえない第一号から第三号までに掲げる事由と同等の理由があるとき」には、これを解除することができる旨の約定があり、さらに「この保険契約に付加されている特約が重大事由によって解除されたとき」に主たる終身保険契約も解除できることになっている。

(二) 右各保険契約のほか、別紙訴外契約目録記載の各保険契約(以下「訴外保険契約」という。)など多数の、しかも告知義務に違反する保険契約を集中的に締結していること、昭和五九年頃からほぼ毎年のごとく入院を繰り返していること、これら過去の入院歴の中に故意に保険事故を招来せしめたと疑われるもの及び不必要な入院がなされていると疑わしめるものがあること、本件保険事故が不自然な事故であり、故意に保険事故を招来せしめたと疑われるものであるとともに、長期入院の必要性に疑問があることなどからして、保険契約者たる原告らは、強い不信行為を行い、信義則上保険者たる被告らとの信頼関係を破壊したものであり、保険制度の目的に反する状態がもたらされたとみるべきである。

(三) そこで、平成六年一月一九日の本件口頭弁論期日において、被告明治生命は、本件一の保険契約を、被告住友生命は、本件二の保険契約をそれぞれ解除する旨の意思表示をした。

そして、この解除の効力は遡及すると解すべきであり、また、本件一、二の保険契約において、災害給付金の支払理由が生じた後でもこの特約を解除することができ、この場合には災害入院給付金の支払いをしない旨約定されているから、原告児髙主張の災害入院給付金を支払う義務はない。

2  詐欺による無効

本件一の保険契約について、保険契約者又は被保険者に詐欺の行為があったときは、保険契約を無効とする旨の約定が、本件二の保険契約について、保険契約者又は被保険者の詐欺により保険契約を締結したときは、保険契約を無効とする旨の約定がそれぞれ定められているところ、前記(二)の事情からして、原告児髙は、不当な入院給付金を取得する目的を持ちながらこれを秘して本件一、二の保険契約を締結したものである。したがって、本件一、二の保険契約は、詐欺により無効である。

3  公序良俗違反による無効

本件一、二の保険契約を含め多数の保険会社と入院特約付生命保険契約が締結されており、一日の入院給付金額が一一万五〇〇〇円にもなる不当な金額になっているのであるから、本件一、二の保険契約は、公序良俗に反するものとして無効である。

(被告東京海上)

1  故意又は重過失の受傷による免責

本件三、四の保険契約には、故意又は重過失によって生じた身体障害については保険金を支払わない旨の約定が、本件五の保険契約には、故意によって生じた身体障害については支払わない旨の約定がある。そして、前記(二)の事情からすると、本件保険事故は、原告児髙が保険金を取得するため故意に生じさせたものというべきであるから、本件三ないし五の保険契約につき、原告ら主張の保険金等を支払う義務はない。

少なくとも本件保険事故は重大な過失によるものであり、また、原告児髙の被ったという傷害は、事故前にすでに存在した身体障害又は疾病の影響によるものであるから、右保険金等の支払義務はない。

2  告知義務違反による解除

本件三の保険契約には、保険契約時に知っている事実を故意又は重大な過失で告げなかったときは契約を解除できるとの約定がある。原告会社は、本件三の保険契約の申込書において、他の保険契約などの欄で、過去三か年間に取得補償金、傷害保険金を受領したことがあるか、また、他に所得補償保険契約の契約があるかという問いに対して、保険金取得歴及び重複保険があるにもかかわらず、これを故意に告知せずに「なし」と記載した。そこで、被告東京海上は、原告会社に対し、平成五年四月一五日到達の内容証明郵便で本件三の保険契約を解除する旨の意思表示をした。

3  重複保険契約に関する通知義務違反による解除

本件四、五の保険契約について、原告らは、訴外13のシグナ保険会社との保険契約締結の事実を被告東京海上に書面で通知していないのであるから、原告児髙に重複保険契約の通知義務違反があったというべきである。そこで、被告東京海上は、原告児髙及び原告会社に対し、平成五年四月一五日到達の内容証明郵便で、本件四、五の保険契約を解除する旨の意思表示をした。

4  入院開始等の不通知による免責

本件三の保険契約では就業不能期間が開始した日から、本件四の保険契約では入院を開始した日から、また、本件五の保険契約では事故の日から、それぞれ三〇日以内に身体障害の内容あるいは事故発生の状況等を書面で通知するよう求め、正当の理由なくこれに違反したときは保険金を支払わない旨の約定がされていたところ、原告らが被告東京海上に本件保険事故の通知をしてきたのは事故の日から一一か月余を経過した平成五年三月二二日であるから、被告東京海上は、右約定により保険金の支払義務を負わないものというべきである。

四  抗弁に対する原告らの認否及び主張

1  被告らの抗弁はいずれも争う。

原告らは複数の保険会社と保険契約を締結しているが、途中解約されているものもあり、全部の契約が同時に存在するわけでなく、何年間にもわたって順次締結されており、詐欺的な目的を有して多量、集中的に契約したとは到底いえない。そして、原告児髙の入通院回数が若干多いとしても、解除権が発生するほどの重大事由があるとはいえないし、仮に解除が許されるとしても、解除の効果は遡及しない。

また、本件保険事故は、家庭内でテレビを冷蔵庫の上に持ち上げようとして発生したものであるが、一般的に事故は、多かれ少なかれ負傷者にも不注意が多いから発生するものであり、特に家庭内では外出中や仕事中よりは行動に慎重さが足りないことも多い。本件保険事故が不自然であるとか、故意又は重過失によるものであるということはできない。

2  本件三の保険契約の約款では、被告東京海上が告げなかった事実を知った日から、その日を含めて保険契約を解除しないで三〇日経過した場合解除できないことになっており、もはや告知義務違反を理由に解除することはできない。被告東京海上が主張する平成五年四月一五日の解除は、告知義務違反によるものではない。

3  シグナ保険会社は、原告が被告東京海上から平成三年三月二八日の事故により保険金の支払いを受けていることを理由として、シグナ保険会社との契約を解除する旨の通知をしている。シグナ保険会社がこのような調査をしており、シグナ保険会社の代理人と被告東京海上の代理人が同一人であることも考慮すると、遅くともシグナ保険会社が解除の通知を発送した平成四年八月二六日には、被告東京海上もシグナ保険会社との間に重複契約のあることを知っていたはずである。

ところで、傷害保険契約約款及び医療費用保険契約約款によると、被告東京海上が重複保険を知ったときから三〇日以内に行使しなければ、解除権は消滅することになっている。そうすると、被告東京海上の平成五年四月一五日到達の書面による前記解除は、被告東京海上が重複保険契約のあることを知った日の平成四年八月二六日から三〇日以上経過した後にされたものであって、すでに解除権は消滅しているから、無効である。

第三  証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1の各事実(本件各保険契約の締結)は当事者間に争いがない。

二  被告明治生命、同住友生命の本件一、二の各保険契約解除の主張について判断する。

1  重大事由による解除の約定等

(一)  成立に争いのない乙第三号証、第六号証によれば、本件一、二の保険契約について、次のとおり重大事由による解除の約定があることが認められる。

すなわち、保険会社は、①保険契約者又は被保険者が災害入院給付金を詐取する目的で事故招致をした場合、②災害入院給付金の請求に関し、災害入院給付金の受取人に詐欺行為があった場合、③他の保険契約との重複によって、被保険者にかかる給付金額等の合計額が著しく過大であって、保険制度の目的に反する状態がもたらされるおそれがある場合、④その他この特約を継続することを期待しえない①から③までに掲げる事由と同等の事由がある場合には、将来に向かって解除できる旨定められている。

そして、保険会社は、災害入院給付金の支払理由が発生した後においても、右約定により特約を解除することができ、この場合には、災害入院給付金の支払いをしない旨定められている。

(二)  平成六年一月一九日の本件口頭弁論期日において、被告明治生命が本件一の保険契約を、同住友生命が本件二の保険契約を重大事由による解除の約定に基づき解除する旨の意思表示をしたことは、当裁判所に顕著である。

2  解除の効力について

(一)  訴外保険契約の締結等

成立に争いのない甲第七、八号証、第九ないし一五号証の各一、二、乙第一四ないし二一号証、第三〇、三一号証、丙第一二号証、調査嘱託の結果、原告児髙本人尋問の結果、弁論の全趣旨によれば、次のとおり認められる。

(1) 本件各保険契約の外に、原告らが原告児髙を被保険者として別紙訴外契約目録記載の各保険契約を締結したことが認められる(なお、訴外1、8ないし10、12及び14ないし17の各保険契約の締結は、当事者間に争いがない。)。

(2) 訴外8及び10ないし17の各保険契約の締結に当たって、過去の入通院の事実について告知していない。なお、訴外9の保険契約の締結に当たっては、平成三年四月に階段から落ちて第五、六頸椎棘突起骨折し、石川整形外科に約二か月間入院し、完治した旨の告知をした。また、訴外2ないし6の各保険契約については、告知の有無が定かでない。

(3) 本件保険契約を含むこれらの保険料は、時期によって異なるが、本件保険事故の直前の訴外13の保険契約時で、原告児髙契約分だけで月額五〇万円を越えていた。

(4) 原告児髙(昭和四年四月二九日生)は、原告会社の代表取締役であり、毎月の給料は約五三万円であった。原告会社は、赤字経営で、多大な累積赤字を抱えており、平成三、四年当時、繰越欠損金は八〇〇〇万円を超えていた。

以上のとおり認められ、右認定に反する証拠はない。

(二)  原告児髙の事故歴

まず、原告児髙の事故歴及び傷病名をみるに、前記丙第一二号証、藤井康史作成部分について成立に争いのない乙第七号証、成立に争いのない丙第一三ないし一五号証、第一六号証(但し、二四六丁を除く。)、第一七ないし一九号証、原告児髙本人尋問の結果によれば、次のとおり認められる。

(1) 昭和五八年九月一日、原告児髙は、自転車に乗って走行中転倒して、太田外科医院で左胸部打撲の診断を受け、同日から同年一〇月二九日まで五九日通院した。

(2) 昭和五九年七月一六日、バイクを運転して走行中転倒して、林外科医院で左肩・両膝挫傷、右肘関節打撲の診断を受け、同日から同年九月二〇日までの間五一日通院した。

(3) 昭和六〇年三月二三日、トラックを運転して走行中に他車と衝突し、本山外科病院で背部打撲、肋骨骨折の診断を受け、同日から同年四月三〇日まで三九日間入院し、同年五月一日から同年七月三日までの間二二日通院した。

(4) 昭和六〇年一二月三〇日、原告会社の事務所内で足にコーヒーをこぼして火傷をし、太田外科医院で右大腿部火傷(第二度)の診断を受け、昭和六一年一月六日から同年二月四日までの間二五日通院し、同月五日林外科医院に転院して右大腿部火傷の診断を受け、同日から同月一二日までの間六日通院した。

(5) 昭和六一年三月一五日、中区舟入南四丁目一九番八号先路上でジョギング中足をとられて分離帯で強打し、同月一七日吉本外科病院で右第五肋骨亀裂骨折の診断を受け、同日から同年四月一五日までの間二五日通院した。

(6) 昭和六一年四月一二日、中区江波本町四番の横断歩道を歩行中、自転車と接触して、同月一六日本山外科病院で右第六、七肋骨骨折、右肘関節打撲、顔面打撲擦過傷の診断を受け、同日から同年五月一〇日まで入院し(右期間の入院は当事者間に争いがない。)、同月一一日から同年一〇月二〇日までの間五三日通院した。その間、同年五月一二日藤田医院で治療を受け、同月三一日までの間一一日通院した。

(7) 昭和六一年九月五日、中区舟入南一丁目一番先の路上を歩行中ブロック塀に激突し、吉本外科病院で右胸部打撲挫創の診断を受け、同月六日から同年一二月二七日までの間九〇日通院した。

(8) 昭和六一年一二月二九日、原告会社の事務所内で千枚通しで左手小指の付け根を突き抜き、吉本外科病院で左小指切創の診断を受け、同日から昭和六二年一月七日までの間一〇日通院した。

(9) 昭和六二年一月七日、中区舟入本町旧住吉橋歩道上を自転車に乗って走行中欄干に接触して、吉本外科病院で右膝打撲挫創、左肘打撲挫創、左小指切創の診断を受け、同日から同年四月一一日までの間約七六日間通院した。また、同年一月七日本山外科病院で右膝打撲、挫創、右肩・右肘・右胸部打撲の診断を受け、同年四月一一日までの間一九日通院した。

(10) 昭和六二年四月一二日広島市南区松原町広島駅前広場でマンホールに頭部から転落し、平松整形外科で頭部打撲、頭蓋底骨打撲、頸部挫傷、頸髄不全損傷、左第一一肋骨骨折、全身打撲、外傷性ショックの診断を受け、同月一三日から同年一〇月八日まで入院し(右転落により受傷し、右期間入院したことは当事者間に争いがない。)、同月九日から昭和六三年三月一五日までの間二九日通院した。

(11) 昭和六三年一月二五日、広島県双三郡向原町五六―二五石堂タツ子方で重い物を持ち、ギックリ腰になり、本山外科病院で腰部捻挫の診断を受け、同年二月二日から同年三月一八日までの間三六日通院した(腰を痛めて右通院したことは当事者間に争いがない。)。

(12) 昭和六三年三月一九日、広島市中区舟入本町一三―四明光堂前で自転車同士が衝突し、シムラ病院で顔面・頭部打撲・左肩打撲、臨床的肋骨骨折、外傷性頸部症候群の診断を受け、同日から同年四月一八日まで入院し、同月一九日から同年五月三〇日までの間、三二日通院した(右事故により右期間入院したことは当事者間に争いがない。)。

(13) 昭和六三年五月三〇日、広島市中区河原町一番歩道下り坂で自転車の運転を誤り電柱に激突し、シムラ病院で後頭部挫創、皮下出血、脳挫傷左前頭葉出血、胸部打撲、左大腿部打撲の診断を受け、同日から同年八月一日まで入院し(右事故により右期間入院したことは当事者間に争いがない。)、同月二日から同年一一月九日までの間七二日通院した。

(14) 平成三年三月二八日、原告児髙の自宅で階段を踏み外して転落し、同日広島記念病院で治療を受け、翌日石川整形外科で第六、七頚椎棘、突起骨折、頭部打撲、腰部捻挫の診断を受け、同年六月一一日までの間入院し、同日藤井病院に転院し、第六、七頚椎棘、突起骨折、腰部打撲の診断を受けて同年八月一九日まで入院し、翌日から同年一一月六日までの五七日間通院した(右転落、入院期間及び転院の事実は当事者間に争いがない。)。

以上のとおり認められ、右認定に反する証拠はない。

(三)  原告児髙の病歴

成立に争いのない乙第二二ないし二四号証の各一、二、第二五号証の一、弁論の全趣旨によれば、次のとおり認められる。

(1) 藤田病院で、昭和五三年三月二七日に高血圧症兼冠不全、昭和五七年一月七日に慢性肝炎兼脳動脈硬化症兼弛緩性便秘の診断を受けた。また、昭和六一年五月一二日に肩胛関節周囲炎、昭和六二年一一月一一日に便秘症、昭和六三年九月二〇日に急性咽頭炎兼気管支炎の診断を受けた。

(2) 吉島病院で、昭和六一年六月一八日から同年七月二二日までアルコール症うつ状態により入院した。

(3) 平松整形外科で、昭和六二年六月一二日に脳動脈硬化症、同年九月一七日に全身倦怠、肝機能障害疑い、同年一〇月九日に急性咽頭炎、昭和六三年一月二〇日に急性腰痛症と診断された。

(4) 広島記念病院で、平成二年八月三日から同年一一月五日まで慢性肝炎により入院した。以後、肝障害により治療を受けている。

(5) 藤井病院で、平成三年六月一一日慢性肝炎、高血圧症、同年八月三日に食道静脈瘤、胃炎、頚肩腕症候群の診断を受けた。

以上のとおり認められ、右認定に反する証拠はない。

(四)  訴外保険契約に基づく入院・通院給付金の受領等

前記甲第七、八号証、第九号証の一、第一〇ないし一二号証の各一、二、乙第一四ないし二一号証、第三〇、三一号証、丙第一二号証、調査嘱託の結果によれば、次のとおり認められる。

(1) 原告児髙は、昭和六一年六月一〇日、前記(6)の事故により入院したとして訴外7の保険契約に基づき共済金を請求し、七万五〇〇〇円の支払いを受けた。

また、原告児髙は、昭和六二年一〇月二三日、前記(10)の事故により入院したとして同保険契約に基づき共済金の請求をした。これに対し、全国労働者共済生活共同組合連合会は、共済契約締結前の昭和六〇年三月一一日より同年九月三〇日までの間、頭部打撲、頭頂歩裂創、頸部捻挫、脳圧亢進症により治療を受けていた事実が判明したので、右事実の告知がないことを解除原因として契約解除の意思表示をしたところ、同原告は、昭和六三年三月三日、広島簡易裁判所に調停の申立てをし、その調停において、右連合会が和解金三〇万円を支払うこととし、右解除が有効であることを確認する旨の調停が成立し、同原告は、右和解金の支払いを受けた。

(2) 原告児髙は、昭和六三年一〇月一三日、訴外1の保険契約に基づき、前記(12)、(13)の事故について入院給付金を請求し、同月二六日合計二五万円の支払いを受けた。また、同原告は、平成二年一一月一三日、訴外1の保険契約に基づき、肝硬変症による前記(4)の入院について入院給付金を請求し、同月一六日一四万二五〇〇円を支払いを受けた。

また、同原告は、平成三年九月一日、右保険契約に基づき、前記(14)の事故について入院給付金を請求し、同月二七日一五万円の支払いを受けた。

(3) 訴外5の保険契約に基づき、前記(7)、(8)の事故について通院給付金の請求があり、エー・アイ・ユー保険会社から支払われた。そして、平成元年八月、右各保険契約は解約された。

(4) 訴外2の保険契約は、平成二年三月三〇日に、訴外4の保険契約は同年四月二日にそれぞれ解約された。

(5) 原告児髙は、平成三年一月二四日、訴外8の保険契約に基づき、肝硬変症による前記(4)の入院について入院給付金の請求をした。千代田生命保険相互会社は、契約前の発病のため支払い事由に該当しないとして支払いをせず、かつ、昭和五七年一月七日から肝障害の診断を受け、治療してきた事実について告知義務違反として平成三年三月二七日契約を解除した。

(6) 原告児髙は、平成四年九月一〇日、訴外9の保険契約に基づき、本件保険事故について入院給付金を請求し、大和生命保険相互会社は、同年一〇月二八日入院給付金一二〇万円を支払った上、同年一一月一〇日合意解除した。

(7) 訴外12の保険契約について、朝日生命保険相互会社は、原告児髙より追加告知を受理し、告知義務違反により解除した。

(8) 訴外14の保険契約に基づく入院給付金の請求はないが、第一生命保険相互会社は、右契約が詐欺により無効であるとして、原告児髙と交渉中である。

(9) 訴外15ないし17の保険契約に基づく入院給付金の請求はない。

以上のとおり認められ、右認定に反する証拠はない。

(五)  右(一)ないし(四)の認定事実をもとに検討する。

(1) 原告児髙及び同原告が代表取締役の原告会社は、前記認定のとおり原告児髙を被保険者として多数の保険に加入してきており、平成元年一二月一日の本件一の保険契約以後をみても、平成四年五月一日までの間に一五口もの多数の保険契約を締結している。これらの保険料は、本件保険事故直前で原告児髙契約分だけでも月五〇万円を超えており、同原告の給料の殆どを保険料に充てていることになり、異常といわざるをえない。

また、本件事故時の一か月の入院給付金は、三三〇万円余となり、原告児髙の月収からして異常に高く、本来の入院給付金の趣旨にそぐわないものとなっている。

(2) 原告児髙は、昭和五八年から本件保険事故直前の事故である平成三年三月の事故までに一四回という多数回にわたって傷害事故で傷害保険から保険金を受領しており、その回数自体異常と考えられる上、右傷害事故のうち、目撃者のいない自損事故が一一回もあって、自転車での転倒、バイクでの転倒、歩行中のブロック塀衝突、自宅内での階段の踏み外しによる転落などであり、このような自損事故が度々生ずること自体通常では考えられないところである。

(3) 原告児髙は、前記のとおり入通院を繰り返していながら、殆どの保険契約について、過去の入通院の事実を告知していない。

(4) 原告児髙は、平成元年一二月一日の本件一の保険契約締結前において、前記(二)の(7)、(8)、(13)のような自損事故により保険会社から通院、入院給付金を受領しており、本件各保険契約に当たって、多数の保険会社と契約をし、傷害を訴えて入院をすれば、入院給付金を受領できることを計算していたものと考えられる。

(六)  本件保険事故について

(1) 原告児髙の供述の不自然

原告児髙の供述、甲第六号証(原告児髙作成の平成六年五月九日付け陳述書)、丙第二三号証(同原告作成の平成四年八月二一日付け事故状況報告書)によると、原告児髙は、自宅の二階台所において、二〇インチの重さ約三〇キログラムのテレビを高さ1.7メートルの冷蔵庫の上に載せるため、テレビを抱えて、踏み台とした椅子の上に上がり、テレビを冷蔵庫の上に持ち上げようとしたときに、バランスを崩して、テレビを抱えたまま後方に転倒し、後ろにあった食卓で後頭部を打撲し、テレビで胸部を打撲したというものである。

そして、本件保険事故の具体的状況について、原告児髙は、その本人尋問において次のとおり供述する。すなわち、「冷蔵庫の約二〇センチメートル前に食卓の椅子を置き、テレビを両手で抱えた形で椅子の左前端部分に両足を載せて椅子に上がり、その後、右足を椅子の左前端部分に置いたまま、約五〇センチメートル斜め前方にある鏡台(高さ約七〇センチメートル)に左足を伸ばして、その端に左足を置き、ちょっと背伸びする格好でテレビを持ち上げていった。」、「その姿勢で冷蔵庫の上部が目で覗くことができる位であった。その位置は、テレビの底の部分を自分の顎より上の高さに持ち上げないといけない状況であるが、テレビの底が冷蔵庫の上に載るぐらいの所まで上げた、その時は、テレビの底面が顎より上にあり、手の位置は上げたままでテレビを支えていた。」、「その時に椅子が後ろへ滑ってずれ、椅子は足を掛けている方が冷蔵庫側に傾き、背当ての方の脚が持ち上がって、椅子が倒れ、その瞬間、テレビを壊したらいけないと思い、再度胸で抱え直した。原告児髙は、テレビを抱えたままテーブルの角に頭をぶつけて、そのまま床に仰向けに倒れた。」。

ところで、原告児髙本人尋問の結果によれば、テレビの大きさは、横が五六センチメートル、縦が四三センチメートル、奥行き三二センチメートル、重さが約三〇キログラム、冷蔵庫の高さは1.7メートル、食卓用の椅子の足の高さは四〇センチメートル、原告児髙の身長は1.65メートルであることが認められ、右認定に反する証拠はない。

そこで、原告児髙の前記供述を検討するに、まず、約三〇キログラムの重量があり、把手がない右のような大きさのテレビを一人で抱えること自体、通常の男性でも容易でない。しかも、六三歳の男性が、一人で自分の身長より高い1.7メートルの冷蔵庫の上に載せること自体、通常では考えられない行為である。

また、テレビを抱えた状態で、椅子に上がり、椅子の前端部分に両足を置いて立ったと言うが、通常の男性が、そういう姿勢で椅子の上に立つこと自体危険な行為である。また、椅子の前端部分に右足を置き、一方、その椅子から約五〇センチメートル離れたところにある鏡台の前端部分(高さは、椅子のより約三〇センチメートル高い。)に左足を置いた姿勢で、約三〇キロもあるテレビを抱え、その位置よりさらに約1.3メートル高い所まで持ち上げようとしたというが、そのような姿勢による行為自体極めて危険な行為であって、通常では考えられない行為である。

また、テレビの底が冷蔵庫の上に載る位の高さまで持ち上げた両手を挙げた格好でテレビを支えていた時に、右足を置いていた椅子が滑り、その瞬間にテレビを再度両手で抱え直して、テレビを抱えたまま転倒したという。しかしながら、そのような格好でテレビを支えていた時に右足の支えを失った場合、通常、持ち上げていたテレビは手から離れて落下するのではないかと考えられ、約三〇キロもあるテレビを両手で受け止めて抱え直すことができるかどうか極めて疑わしく、テレビを抱えたまま転倒することは通常考えられない。

以上のとおり、本件保険事故の状況に関する原告児髙の供述は、その内容に不自然な点が多い。

(2) 原告児髙の供述の変遷

原告児髙の供述をみるに、原告児髙作成の平成四年八月二一日付け事故状況報告書(丙第二三号証)では、「抱えていたテレビは床に転倒した私の左胸部を強打してしまった。」、「転倒後…一五分位床に倒れたまま身動きができませんでしたが、徐々に痛みも弱まりましたので、床にころがったテレビをそのままにして」とするのに対し、原告児髙本人の供述では、「テレビを壊したらいけんと思って、しっかり抱えていた。」と述べる。

転倒した状況について、原告児髙は、本人尋問の中で、「椅子が後ろへはじいたんです、椅子がずれたんです、滑ったんです。後ろへずれて行った。」と言い、他方で「椅子の足の背当ての方が持ち上がった。」とも述べている。

また、原告児髙が持ち上げようとしたテレビについて、平成四年八月二一日付けの前記事故状況報告書では、「事故当日の午後五時ころスーパーで買った。」とし、平成六年五月九日付け陳述書(甲第六号証)では、「四、五日前に買った。」とし、また、平成七年二月二二日の本人尋問の中では、「広告を見て、当日午後五時過ぎに買いに行った。」と述べている。

また、事故があった時、本人尋問の中では、「当時、妻は事務所にいた。倒れた時家族はだれも気付かなかった。」と述べているが、前記陳述書では「妻は同じ台所にいて、私の様子を見ていました。」としている。

以上のとおり、原告児髙の供述は、事故の重要な事柄について供述が変遷しており、あいまいである。

(3) 受傷の内容、程度

前記丙第一三、一四号証、第一六、一七号証、第一九号証、成立に争いのない丙第一〇号証、弁論の全趣旨により成立の認められる丙第二二号証、証人藤井の証言によれば、次のとおり認められる。

① 原告児髙は、四月二七日藤井病院で診察を受け、四月二六日夜テレビを持ち上げた時に急に腰の痛みが出現して転倒し、左前胸部を打撲し、後頭部も打撲したと藤井医師に述べて、吐き気、食欲不振、頭痛を訴えた。

② 後頭部に血腫があり、左胸部に圧痛、介達痛を認めた。右血腫は、五センチ位のものであるが、これはたんこぶの状態であり、いわゆる創傷にはなっておらず、二、三週間位で治癒するものであった。

③ 左胸部痛は、左前胸部を手で押さえると痛みを訴えた。しかし、その部分に血腫、擦り傷はない。胸部痛は、以前にも他の病院で訴えている症状である。

④ 腰の痛みは背骨の横辺りにあり、圧痛である。腰部に外傷はなく、血腫、浮腫もない。本件保険事故の約一年前の平成三年三月二八日、原告児髙は、前記のとおり腰部を打撲したとして入院し、同年八月退院した後も同年一一月まで、腰痛の治療を続けていた。また、原告児髙は、経年性の脊椎の変形がみられ、腰の痛みが出やすい状態である。

⑤ 原告児髙は、昭和六三年五月三〇日の事故により入院したシムラ病院において、同月三一日の頭部CT検査で左前頭葉内出血が認められ、脳挫傷左前頭葉出血の診断を受け、同年九月二八日のCT検査の結果、脳内出血はすべて吸収されて脳挫傷痕となり、脳浮腫は消失したと診断された。また、平成二年八月三日の広島記念病院でのCT検査においても左前頭葉は萎縮で皮質に欠損部があることが認められた。

平成四年六月二日、藤井医師は、CT検査の結果から前頭葉に脳挫傷があると診断したが、この検査結果は、従前のCT検査の結果と比較してほとんど変化はない。

以上のとおり認められ、右認定に反する証拠はない。

右認定事実によれば、本件保険事故による受傷したという原告児髙の傷害は、他覚的所見としては、後頭部に約五センチメートルの血腫(たんこぶ)と左胸部に圧痛、介達痛を認めた程度であることが認められる。そして、腰痛は、原告児髙自身の訴えによるものであり、過去の事故で腰痛の治療を受けている上、経年の脊椎変形がみられることから、これに因る可能性が十分考えられる。また、右認定事実に証人藤井の証言を合わせ考えると、藤井医師が診断した前頭葉の脳挫傷は、過去の事故によるものであることが認められる。

そして、右認定の受傷と本件保険事故の状況との整合性についてみるに、仮に事故状況が原告らのいうとおりであった場合、その程度の受傷で済むとは通常考えられないところであり、また、右認定程度の傷害で一二九日間の入院や一三三日間の通院が必要であったとは到底考えられない。

3 以上を総合すれば、原告児髙は、入院給付金の取得を意図して、故意に本件保険事故の発生を仮装したものであると推認するのが相当である。そして、原告児髙のこのような不信行為は、信義則上被告明治生命、同住友生命との間の信頼関係を破壊したものであり、保険制度の目的に反する状態がもたらされているとみるべきであるから、被告明治生命及び同住友生命のした重大事由による前記解除は、その効力を生じたものというべきである。

そして、本件一、二の保険契約には、前記のとおり災害入院給付金の支払理由が生じた後でも、重大事由により解除することができ、この場合には、災害入院給付金の支払いをしない旨の約定があるから、被告明治生命及び同住友生命は、原告児髙の請求する災害入院給付金を支払う義務はないものといわなければならない。

三  被告東京海上は、本件保険事故は、原告児髙の故意又は重大な過失によるものであるから、免責される旨主張するので、この点について判断する。

1  成立に争いのない丙第二号証によれば、本件三の保険契約には、保険契約者又は被保険者の故意又は重大な過失によって被った身体障害による就業不能に対しては、保険金を支払わない旨の約定があることが認められる。

成立に争いのない丙第二六号証によれば、本件四の保険契約には、被保険者の入院が、保険契約者又は被保険者の故意又は重大な過失によって被った身体障害による入院である場合には、保険金を支払わない旨の約定があることが認められる。

成立に争いのない丙第二四号証によれば、本件五の保険契約には、保険契約者又は被保険者の故意によって生じた傷害に対しては、保険金を支払わない旨の約定があることが認められる。

2 そして、前記二において説示したとおり、原告児髙は、入院給付金の取得を意図して、故意に本件保険事故を仮装したものであり、前記二2(六)の(3)で認定した原告児髙の傷害も故意によるものと認めざるを得ない。

したがって、被告東京海上は、前記1の各約定により、原告らの請求する保険金等を支払う義務はないものといわなければならない。

四  以上の次第で、原告らの本訴請求はいずれも理由がないから棄却し、訴訟費用の負担について、民訴法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官池田克俊)

別紙契約目録

一 契約日 平成元年一二月一日

保険証券番号 三四―三七五一二四

保険会社 被告明治生命

契約者 原告会社

被保険者 原告児髙

保険の種類 ダイヤモンド保険ライフ

保険の内容 普通死亡時保険金三〇〇〇万円

給付金の内容 災害入院給付金

一日につき一万五〇〇〇円

二 契約日 平成二年七月一日

保険証券番号 九〇一八六〇九〇一五一

保険会社 被告住友生命

契約者 原告児髙

被保険者 原告児髙

保険の種類 新終身保険フレックス

保険の内容 普通死亡時保険金二五〇〇万円

給付金の内容 災害入院給付金

一日につき一万円

三 契約日 平成三年二月七日

保険証券番号 五一二五四二〇六二三

保険会社 被告東京海上

契約者 原告会社

被保険者 原告児髙

保険の種類 所得補償保険契約

保険の内容 月額五〇万円

四 契約日 平成三年一一月二一日

保険証券番号 A〇〇〇〇九五四六二

保険会社 被告東京海上

契約者 原告会社

被保険者 原告児髙

保険の種類 新医療総合保険

保険の内容 死亡・後遺障害

保険金五〇〇〇万円

給付金の内容 入院保険金

一日につき一万五〇〇〇円

通院保険金 一日につき七五〇〇円

五 契約日 平成四年二月二四日

保険証券番号 五一三九〇〇三七四六

保険会社 被告東京海上

契約者 原告児髙

被保険者 原告児髙

保険の種類 傷害保険契約

保険の内容 死亡・後遺障害

保険金一七九四万円

給付金の内容 入院保険金 一日につき七五〇〇円

通院保険金 一日につき三〇〇〇円

別紙訴外契約目録

1 契約日 昭和四一年九月二八日

保険会社 日本生命保険相互会社

契約者 原告児髙

被保険者 同

保険の種類 暮らしの保険

保険の内容 満期一〇〇万円、死亡保険金三〇〇万円、

災害死亡保険金四〇〇万円

給付金の内容 災害入院給付金

五万円ないし二〇万円

保険金 年額六万五〇〇〇円

2 契約日 昭和五〇年九月一日

保険会社 大同生命保険相互株式会社

契約者 原告会社

被保険者 原告児髙

保険の種類 定期保険

保険の内容 普通死亡保険金五〇〇〇万円

給付金の内容 入院給付金日額五〇〇〇円

保険料 月額六万四九五五円

3 契約日 昭和五〇年九月一日

保険会社 エー・アイ・ユー保険会社

契約者 原告会社

被保険者 原告児髙

保険の種類 普通傷害保険

保険の内容 死亡後遺障害五〇〇〇万円

給付金の内容 入院給付金日額一万五〇〇〇円、通院給付金日額七五〇〇円、治療費用一〇〇万円

保険料 月額一万〇七〇四円

4 契約日 昭和五八年一月一日

保険会社 大同生命保険相互株式会社

契約者 原告会社

被保険者 原告児髙

保険の種類 定期保険

保険の内容 普通死亡保険金五〇〇〇万円

給付金の内容 長期疾病入院給付金日額一万円、長期成人病入院給付金日額一万円

保険料 月額六万六三五〇円

5 契約日 昭和五八年一月一日

保険会社 エー・アイ・ユー保険会社

契約者 原告会社

被保険者 原告児髙

保険の種類 普通傷害保険

保険の内容 死亡後遺障害五〇〇〇万円

給付金の内容 入院給付金日額一万五〇〇〇円、通院給付金日額七五〇〇円 治療費用一〇〇万円

保険料 月額一万〇七〇四円

6 契約日 昭和五八年五月三〇日

保険会社 大東京火災海上保険株式会社

契約者 原告児髙

被保険者 原告児髙

保険の種類 積立ファミリー傷害保険

保険の内容 普通死亡保険金五〇〇〇万円

給付金の内容 入院給付金日額一万五〇〇〇円、通院給付金日額一万円

7 契約日 昭和六〇年一〇月九日

保険会社 全国労働者共済

生活共同組合連合会

共済契約者 原告児髙

被共済者 原告児髙

共済の種類 個人定期生命共済

共済金額 交通事故による死亡一〇〇〇万円、不慮の事故による死亡八〇〇万円、その他の原因による死亡四〇〇万円、後遺障害一六万円から一〇〇〇万円、入院給付金日額一〇〇〇円ないし五〇〇〇円

共済掛金 日額二〇〇〇円

8 契約日 平成二年九月一日

保険会社 千代田生命保険相互会社

契約者 原告児髙

被保険者 原告児髙

保険の種類 医療保険付終身保険

保険の内容 普通死亡保険金三〇〇〇万円、災害死亡保険金三〇〇〇万円

給付金の内容 入院給付金日額一万円

保険料 月額九万五九七四円

9 契約日 平成三年一〇月九日

保険会社 大和生命保険相互会社

契約者 原告児髙

被保険者 原告児髙

保険の種類 特別養老保険

保険の内容 普通死亡保険金五〇〇万円

給付金の内容 災害入院給付金日額一万円、疾病入院給付金日額一万円

保険料 月額七万三二七〇円

10 契約日 平成四年一月一日

保険会社 アメリカン・ライフ・インシュアランス・カンパニー

契約者 原告児髙

被保険者 原告児髙

保険の種類 医療保険

保険の内容 普通死亡保険金一五〇万円

給付金の内容 災害入院給付金日額一万五〇〇〇円、疾病入院給付金日額一万五〇〇〇円

保険料 月額二万五九五〇円

11 契約日 平成四年一月一日

医療費

期間

医療費

平成4年4月27日~30日

12110円

5月1日~15日

1950円

5月16日~31日

43870円

6月1日~15日

1950円

6月16日~30日

1950円

6月1日~30日

34820円

7月1日~15日

5150円

7月16日~31日

5400円

7月1日~31日

33950円

8月1日~15日

4750円

8月16日~31日

5500円

8月1日~31日

24970円

9月1日~2日

2390円

合計

178760円

保険会社 アメリカン・ライフ・インシュアランス・カンパニー

契約者 原告児髙

被保険者 原告児髙

保険の種類 平準定期保険

保険の内容 普通死亡保険金三〇〇〇万円、災害死亡保険金五〇〇〇万円

保険料 月額七万八三三〇円

12 契約日 平成四年一月一日

保険会社 朝日生命保険相互会社

契約者 原告児髙

被保険者 原告児髙

保険の種類 定期保険特約付普通終身保険

保険の内容 普通死亡保険金五〇〇〇万円、災害死亡保険金六〇〇〇万円

給付金の内容 災害入院給付金日額一万円、疾病入院給付金日額一万円、成人病入院給付金日額一万円

保険料 月額一三万八〇九〇円

13 契約日 平成四年二月二八日

保険会社 シグナ保険会社

契約者 原告児髙

被保険者 原告児髙

保険の種類 普通傷害保険

保険の内容 死亡・後遺傷害

保険金三〇〇〇万円

給付金の内容 入院給付金日額一万円、通院給付金日額五〇〇〇円

保険料 月額七万〇八〇〇円

保険期間 一年間

14 契約日 平成四年五月一日

保険会社 第一生命保険相互会社

契約者 原告児髙

被保険者 原告児髙

保険の種類 定期保険特約付新種終身保険

付添看護費用表

期間

日数

紹介手数料

賃金

平成4年4月27日~30日

4日間

3336円

29040円

5月1日~10日

10日間

6989円

72600円

5月11日~20日

10日間

6989円

72600円

5月21日~31日

11日間

7688円

79860円

6月1日~10日

10日間

6989円

72600円

6月11日~20日

10日間

6989円

72600円

6月21日~30日

10日間

6989円

72600円

7月11日~10日

10日間

6989円

72600円

7月11日~20日

10日間

6989円

72600円

7月21日~31日

11日間

7688円

79860円

8月1日~10日

10日間

6989円

72600円

8月11日~20日

6日間

4193円

43560円

8月21日~31日

11日間

7688円

79860円

9月1日~2日

2日間

1397円

14520円

小計

125日間

87902円

907500円

合計

995402円

保険の内容 普通死亡保険金二〇〇〇万円、災害死亡保険金三〇〇〇万円

給付金の内容 災害入院給付金日額一万円、疾病入院給付金日額一万円

保険料 七万六〇八〇円

15 契約日 平成四年五月一日

保険会社 東邦生命保険相互会社

契約者 原告児髙

被保険者 原告児髙

保険の種類 医療保障付定期保険

保険の内容 普通死亡保険金五〇万円、災害死亡保険金一〇〇万円

給付金の内容 災害入院給付金日額五〇〇〇円、疾病入院給付金日額五〇〇〇円、ガン入院給付金日額五〇〇〇円

保険料 月額六七五〇円

16 契約日 平成四年五月一日

保険会社 東邦生命保険相互会社

契約者 原告児髙

被保険者 原告児髙

保険の種類 定期付終身保険

保険の内容 普通死亡保険金二〇〇〇万円、災害死亡保険金二二〇〇万円

給付金の内容 災害入院給付金日額一万円、疾病入院給付金日額一万円

保険料 月額五万八六一五円

17 契約日 平成四年五月一日

保険会社 大正生命保険株式会社

契約者 原告児髙

被保険者 原告児髙

保険の種類 医療保障保険

保険の内容 普通死亡保険金五〇万円

給付金の内容 入院給付金日額五〇〇〇円

保険料 月額八四一八円

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